昨年12月下旬に米国上院・下院でトランプ減税法案が可決された。恒久的に法人税率を35%から21%へ、時限立法として所得税を引下げた。その抱き合わせで住宅取得関連費用控除枠の縮小も決定した。具体的には、住宅ローン支払利息と固定資産税の費用化の対象金額上限を引き下げた。当然ながら多くのジャーナリストが住宅市場にはネガティブな影響を与える政策変更だという記事を書いている。
しかしながら、S&Pが不動産関連指数の一つとして戸建建売会社株価指数をETF化して市場で売買されているが(正式名:SPDR S&P Homebuilder
ETF、テッカー`XHB`)、この数カ月値上がりが続いている。S&P500〔米国大型株価指数〕の過去12カ月上昇率20%と比較しても、それを上回る32%となっている。
過去12カ月の個別銘柄別パフォーマンスを見ても、戸建建売大手3社、D.R.Horton(テッカー`DHI`)が92%、Pulte Group Inc.(テッカー`PHM`)が85%、Lennar
Corp(テッカー`LEN`)が59%と戸建建売会社ETFのパフォーマンスを大きく上回っている。特にこの数カ月の上昇率には目を見張るものがある。この背景には住宅市場が抱える在庫不足と旺盛な需要が今回の税制改正によるネガティブ要素をかき消した格好となっている。
一方、賃貸業等を営む不動産投資家と地主にとっては朗報だ。注目すべきは今回の減税で新たに付け加えられたのはパススルー事業からの所得に対して20%の費用控除が一律認められることになった。匿名性と訴訟対策上、不動産投資家はLLC・パートナーシップ等のパススルー・エンティティを通して物件保有する商慣習がある。
もし仮に所得税率37%を支払うような個人投資家がLLCを通して不動産所得を得ると一律20%の費用計上が認められることになる。つまり、税率37%の課税対象所得が29.6%で済むことになるわけだ。物件所有者が自ら住まない物件を保有する所有者にとっては今回の減税策が有利に働くことになる。したがって、戸建て以外の共同住宅・事務所・商業施設等の収益物件市場は減税分値上がりする可能性を秘めていると言えよう。
(本記事の内容は筆者個人の分析・見解です)
小川 謙治
ブルックスグループ
海外不動産ファイナンシャルアドバイザー
北海道出身、一橋大学経済学部卒業。UCLA不動産関連科目履修。
東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)開発金融部海外不動産グループ(米国担当2年半)、ユニオンバンク(7年加州駐在)にて、不動産を中心とした開発金融・アドバイザリー業務を経験。2000年に退職後、ローンスターファンド・ラサールインベストメント等の外資系投資ファンド・日系投資会社、ブルックス・グループで、不良債権・再生・不動産・未公開企業等のオルタナ投融資の実績と経験を積む。
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